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『アビー・ロード』50周年記念スーパー・デラックス・エディション:『アビー・ロード』はビートルズの「卒業制作」だったっていう考え方

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9月にビートルズの『アビー・ロード』50周年記念スーパー・デラックス・エディションが発売されたので,これを繰り返し聴いています.

卒業制作

スーパー・デラックス・エディションが発売される前から私は,1969年に発売された『アビー・ロード』をビートルズの「卒業制作」だったと考えてきました.

ビートルズの4人のメンバーそれぞれがビートルズというグループを卒業するにあたり提出した作品であり,ビートルズというグループが4人での活動から卒業するにあたって世界に提出した作品でもあった,という考え方です.

50周年を記念して新しくリミックスされた今回の『アビー・ロード』を聴いても,同じような印象を受けます.

『アビー・ロード』は4人のメンバーそれぞれが作った曲が8曲続き ("Come Together" から "Because" まで),それからメドレー形式の曲が約15分間にわたって続く構成になっています.

8曲はいずれも完成度が高く,スタジオで4人が試行錯誤しながら完成度を高めていった痕跡が残されていません.最初から最終形態が見えていて,それを演奏して録音したように聞こえます.

8曲に共通したカラーのようなものは存在せず,ビートルズの作品というよりは,4人が各自の作風を濃厚に反映させた作品を持ち寄り,楽器やコーラスを手分けして担当して演奏したようにも聞こえます.

以上が,メンバー4人それぞれの 「卒業制作」です.

後半約15分間のメドレーは,しっかりとした設計図があってそれに従って正確に組み立てられた建造物のような印象を受けます.

リンゴ・スターが "Carry That Weight" を熱唱する時間を途中に配置しつつ,ジョン・レノンとポール・マッカートニーがそれぞれつくった曲を接続し,それぞれがリード・ボーカルをとる構成は,メンバー全員から世界に向けての作品発表になっています.

"Polythene Pam" が終わりジョンが "Oh, look out!" と叫んでポールの "She Came In Through The Bathroom Window" にリード・ボーカルがバトンタッチとなるあたり,"A Hard Day's Night" や "Anytime At All" を思い出して,「レノン & マッカートニーここにあり!」という感じです.

メドレーにはジョージ・ハリスンがリード・ボーカルを担当する場所がありませんが,そのかわりにあちらこちらで主旋律が休符になっている場所を埋めるリード・ギターを彼は担当しており,このメドレーは4人による共同制作になっています.

終盤 "The End" でビートルズ全作品中ここだけで披露されたリンゴ・スターのドラム・ソロとか,ポール+ジョージ+ジョンによるギター・ソロのリレーとか,コンサートにおけるメンバー紹介のようでもあります.

このメドレーはビートルズから世界へ提出された 「卒業制作」です.

整理整頓

『アビー・ロード』に私は整理整頓された印象を抱き続けてきました.作品づくりと演奏に集中して取り組み,「余計なこと」をやっていないからです.

ビートルズは1966年にコンサート活動を止めてスタジオにこもって作品作りに専念するようになりました.

その最初の作品『リボルバー』では,1曲目が始まる前に,けだるいカウントダウン,咳払い,テープ逆回転のような音,曲を奏でているわけでもないギター音,が聞こえます.ここから始まるために,このアルバムには,どこか だらしないムードが漂っています.

2年後の『ザ・ビートルズ』(通称ホワイト・アルバム) ではこれがエスカレートし,1曲目 "Back In The USSR" ではエンディングの楽器演奏のタイミングがバラバラなまま(いちおうSEで埋めてはいる),"The Continuing Story of Bungalow Bill" と "While My Guitar Gently Weeps" の間には謎の掛け声,"Revolution 1" ではイントロのギターを弾き直しつつ掛け声,といった状況で,アルバム全体の散漫な印象を増幅しています.

半世紀前のビートルズと制作スタッフがアルバムづくりでどうしてこのような「余計なこと」をやったのか,私にはわかりません.

コンサート活動を止めてしまうと音楽を聞きにくる観客のことを考えなくなり,スタジオで過ごす時間が長くなると,内輪ネタで盛り上がることも増え,それを悪ノリしてレコードにも入れようと考えたのかもしれません.もちろん,何かを表現したかったのかもしれませんが.

『アビー・ロード』ではこういうこういう「余計なこと」をやっていないので,聴き手に作品を「提出する」という心境に変化があったのではないかと私は推測します.

最後の作品

デビュー作『プリーズ・プリーズ・ミー』から始まったビートルズのオリジナル・アルバムの最終作品が『アビー・ロード』なのか『レット・イット・ビー』なのかという点については意見が割れるところです.

アルバム発売順だと『レット・イット・ビー』,4人揃って制作に取り組んだ点を考えると『アビー・ロード』,しかし追加レコーディングの最終日付から判断すると,やっぱり『レット・イット・ビー』,という調子です.

私は,どちらもビートルズの最終作品だったと考えています.

『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を最高傑作として作った後,ホワイト・アルバムを作りながらバンドが崩壊して行って,そのままぐだぐだとレコーディングを続けて行って,なんとか音源をかき集めて『レット・イット・ビー』を出して,このアルバムの最後に聞こえる「これでオーディンションに受かったかな」っていうセリフでおしまいになるっていうストーリーがある一方で,サージェントの後継作品として,プロデューサーも交えて綿密なレコーディングを進めて『アビー・ロード』を完成させ,最後の曲を "The End" として終わりにした,というストーリーも考えられるからです.

『レット・イット・ビー』は結果として「最後に仕上げた作品」,『アビー・ロード』は「最後に卒業制作として世界に提出した作品」,というとらえかたです.

今回公開された音源

というようなことはこれまで私が考えてきた『アビー・ロード』だったのですが,今回スーパー・デラックス・エディションの一部として公開された音源を聞くと,このアルバムに対する印象が変わります.

ビートルズの4人は未完成な状態の曲をスタジオで試行錯誤しながら完成度を高めて行っていて,その様子はサージェントやホワイト・アルバムのときと変わりません.4人の個人作業の合体ではなく,4人のバンドとして最後までサウンドづくりに取り組んでいたことがわかります.

最後の2曲として,"Something" と "Golden Slumbers / Carry That Weight" のストリングス・パートが収録されています.この2音源を聞くと,ビートルズの作品は曲そのものが良かっただけではなく,曲の良さを引き出すアレンジも良かったということがわかります.

振り返れば "Yesterday" ではストリングスが効果的に用いられているし,"Eleanor Rigby" はストリングスなしには成り立たない曲です.

『アビー・ロード』を聴いたことのない人にも聴いてほしい

今回のリミックス作業で,半世紀前にアナログレコードでの再生を念頭に置いて制作された『アビー・ロード』が,2019年の標準的な再生環境で聴きやすいものになりました.オリジナル・バージョンを聴き込んでいる人々からは,音をいじくり過ぎだとの声もあるようですが,このリミックスは2019年を生きる人々にビートルズの作品を紹介する良い取り組みだと私は考えています.

まだ『アビー・ロード』を聴いたことのない人々にはビートルズのサウンドは決して古くないということを知ってもらうために,もちろん何度も聴いた人々には,これまで聞き慣れてきたサウンドへの別の解釈として楽しんでもらいたいと考えています.

『レット・イット・ビー』も楽しみ

来年2020年はアルバム『レット・イット・ビー』リリース50周年です.これに合わせてリミックス版リリースをはじめとするさまざまなイベントが計画されている模様です.『レット・イット・ビー』は同名映画のサウンド・トラックという扱いだったので,もしかしたら現在は封印されている映画『レット・イット・ビー』に関連する何かがあるかもしれません.これも楽しみです.

『アビー・ロード』の次の作品をつくっていたかもしれないっていう話

今年になって半世紀前のテープが発掘されて,もしかしたら『アビー・ロード』の次の作品を作ることになっていたかもしれない,っていうことがわかりました.もしそうなっていたらどんな作品になっていたのでしょうか?

音楽ネタ

www.takahikonojima.net