1965年12月にリリースされたビートルズの「ラバー・ソウル (Rubber Soul)」は,私が最も愛しているアルバムです.
このアルバムには,「ノルウェイの森」や「ミッシェル」といった名曲が収められています.
十代の頃に買ったアナログ・レコードから始まり,2009年にデジタル・リマスターされたCDまで,私は「ラバー・ソウル」を聴きながら人生を過ごしてきました.
「ラバー・ソウル」を聴いた回数は,少なく見積もっても3,000回になります.
「ラバー・ソウル」は私の人生のBGMです.
現在,私の手元には「ラバー・ソウル」のCDが4枚あります(ほかにアナログレコードがあって合計5枚).
なんで同じアルバムが4種類もあるのかっていうと,そこには,ビートルズが活躍していた1960年代に,家庭で音楽を聴くための機器環境が進化していたことが関係しています.
「ラバー・ソウル」収録曲
- Drive My Car
- Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (ノルウェイの森)
- You Won't See Me
- Nowhere Man (ひとりぼっちのあいつ)
- Think for Yourself (嘘つき女)
- The Word (愛の言葉)
- Michelle
- What Goes on (消えた恋)
- Girl
- I'm Looking Through You (君はいずこへ)
- In My Life
- Wait
- If I Needed Someone (恋をするなら)
- Run for Your Life (浮気娘)
1枚目:アナログ・レコードのステレオ盤
ビートルズの現役時代は,世の中の人々が聴く音楽がモノラルからステレオに移り変わって行った時代です.
ステレオっていうのはヘッドホンで音楽を聴いたときに左右から異なる音が聞こえて来るしくみ,モノラルっていうのは同じ音が聞こえて来るしくみです.
スピーカーで音楽を聴くときも同様.
この当時,レコードの標準はモノラル盤で,一部の音響愛好家が高めの値札が付いたステレオ盤を買っていた,という状況でした.
ビートルズもステレオ盤には興味が無かった模様です.
公開されている録音日誌をみると,モノラル・バージョンのリミックスには根性を入れて取り組んでいたのに,ステレオ・バージョンはテキトーにやっつけていたり.
ステレオ盤でそれぞれの音をどこに配置するのが良いのか,なんていうことについても当時は試行錯誤だったのでしょう.アナログ再生専用装置でステレオ盤レコードを再生するときに,音が最もクリアに聞き取れる条件が,左右の完全な分離だったからわざとこうした,という説を聞いたことがあります.
【追記:2017-12-30】ビートルズ音源研究家の野咲 良 氏 @nora_fabs によれば,この説,すなわち故意に左右分離のレイアウトにしたことを,1980年代にプロデューサーのジョージ・マーチン氏が語っているそうです.【追記ここまで】
その結果,この当時に発売されたステレオ盤の「ラバー・ソウル」では,左のスピーカーから楽器演奏が,右のスピーカーからボーカルとコーラスが,中央からは何も聞こえてこない,なんていう状態の曲が収められている状況になりました.
この音の割り振り,ヘッドホンで聴くときに違和感を感じます.
左側からカラオケ,右側から歌,っていう振り分けですからね.
でも,みんながモノラル盤を聴いて音楽を楽しんでいた時代,こういうことは問題にならなかったのでしょう.
そのうちに一般家庭でレコードを聴くための装置でステレオが標準になってきて,ビートルズのレコードもステレオ盤だけが店頭に並ぶようになりました.
十代の頃に私が人生で最初に買った「ラバー・ソウル」は,この,ヘッドホンで聴くと違和感を感じる,ステレオ盤のアナログ・レコードでした.
コレをカセット・テープに録音して,何度も何度も何度も何度も聴きました.
このステレオ盤アルバムは,十代の頃の私の人生を振り返るとき,様々な場面でBGMになっています.
2枚目:最初にCD化されたもの
1986年,ビートルズのアルバムがCD化されました.
このときに「ラバー・ソウル」に関しては,プロデューサーがミキシングをやりなおして,ボーカルを端っこから真ん中のほうに持ってきました*1.
ヘッドホンで「ラバー・ソウル」を聴いても苦しむことはなくなりました.
私の人生で2枚目に買った「ラバー・ソウル」は,1987年発売のCDです.
3枚目:キャピトル盤
1960年代,ビートルズが本国イギリスでリリースするアルバムと,メイン市場だったアメリカでリリースするアルバムでは,収められている曲目も曲数も異なる,なんていう状態でした.
イギリス盤とはミキシングが異なる曲が入っていることもありました *2.
「ラバー・ソウル」についても同様で,14曲入りのイギリス版から4曲をカットして,別のアルバムから2曲を足した12曲入りのものが,同じタイトル,同じジャケットで20年以上にわたってアメリカ国内で販売されていました.
こうした,国によって異なるアルバム構成は,1987年にビートルズのアルバムがCD化されたときに見直されて,イギリスで販売されていた形式に世界で統一されました*3.
アメリカ編集の「ラバー・ソウル」も,この段階で姿を消しました.
ところが2004年,アメリカ編集バージョンのアルバムがCDボックス・セットとなって販売されました.
この中に「アメリカ編集の『ラバー・ソウル』」も含まれていました.
ミキシング違いの曲を聴くためにこのセットを買った私は,自動的に人生で3枚目の「ラバー・ソウル」を買うことになりました.
曲目は以下のとおりです.
- I've Just Seen A Face (夢の人) ←イギリス盤「Help!」収録曲
- Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (ノルウェイの森)
- You Won't See Me
- Think for Yourself (嘘つき女)
- The Word (愛の言葉)
- Michelle
- It's Only Love ←イギリス盤「Help!」収録曲
- Girl
- I'm Looking Through You (君はいずこへ)
- In My Life
- Wait
- Run for Your Life (浮気娘)
イギリス盤に収められていた以下の4曲がカットされています.
- Drive My Car
- Nowhere Man (ひとりぼっちのあいつ)
- What Goes on (消えた恋)
- If I Needed Someone (恋をするなら)
4枚目:2009年のデジタル・リマスター
2009年にビートルズのCDがデジタル・リマスターされて発売されました.
この中に,人生で4枚目となる「ラバー・ソウル」が入っていました.
リミックスではなくてリマスターなのですが,音がくっきりと聞こえるようになりました.
特にハイハットとかシンバルとか.
5枚目:2009年にCD化されたモノラル盤
1960年代にアナログレコードで販売されていたモノラル版が2009年にCD化されて,ボックスセットで販売されました.
ここにも「ラバー・ソウル」が入っていて,そのディスクには,あの,ヘッドホンで聴くと違和感を覚える「1965年のステレオ・バージョン」も収録されています.
1965年当時のモノラルとステレオとを聞き比べできるわけです.
十代の頃に聴いていた,「あのステレオ盤」をCDで聴けるようになったのです.
ボーカルとコーラスが右端に寄っていて,ヘッドホンで聴くのはタイヘンです.
それでもこの音が,私の十代の頃のBGMなのです.
たぶんこれからも「ラバー・ソウル」は人生のBGM
村上春樹氏が「ノルウェイの森」を執筆していたとき,ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」をBGMとしてヘビー・ローテーションしていたそうですが*4,私の人生においては「ノルウェイの森」の収められている「ラバー・ソウル」が,卒業論文においても,修士論文においても,博士論文においても,その後に執筆してきた研究論文においても,常にBGMとなってきました.
「ラバー・ソウル」は私の人生のBGMです.