『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK』 を観てきました.
ビートルズがメジャーデビューした1962年から解散した1970年までのうち,最後のコンサートが行われた1966年8月までのビートルズの日々を紹介しつつ,ライブ会場の模様や,その時代に起きた出来事,そしてビートルズだった4人も含めた様々な人々へのインタビューを組みあわせたドキュメンタリーとなっていました.
#ビートルズ映画 『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years - 』のパンフレットはアナログLPレコードを真似た紙ジャケット入り. #ビートルズ #TheBeatles pic.twitter.com/p2plbPi7Qb
— 野島 高彦【化学】 (@TakahikoNojima) 2016年9月24日
2016年に向けて生前にインタビューが行われていたような錯覚
ビートルズについては現役時代も,解散後のメンバー4人についても,様々なインタビューの記録が残されていますが,それらを適切に組み合わせることによって,この映画のためにすべてのインタビューが収録されているように思わせる構成になっていました.
ジョン・レノンが亡くなったのは36年前(1980年),ジョージ・ハリスンが亡くなったのが15年前(2001年)ですが,この2人は2016年に公開される映画のために生前にインタビューに応じていたのではないか,という錯覚を抱くほどでした.
デジタルリマスター技術の衝撃
映画公開より先に9月9日(金)に全世界同時発売されたサウンドトラック扱いのライブ盤「ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル」では,半世紀前の原始的な機器で録音された音源を21世紀の技術で迫力あるサウンドに蘇らせていました.
- アーティスト: ザ・ビートルズ
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2016/09/09
- メディア: CD
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このアルバムをすでに聴いていたので,今回のサウンドには期待していました.
そしてそれは裏切られることがありませんでした.
音楽プロデューサーを務めたジャイルズ・マーティンが公式パンフレットの中で述べているとおりでした.
当時のライブ会場にいて聴くよりも、この映画で聴いたほうがちゃんと聞こえるというようなレベルまでたどりついてしまったと思う。
映像についても半世紀前に収録されたフィルムを観ているとは思えませんでした.
たとえばライブ演奏シーンでは,二十代だった頃のビートルズ4人にそっくりな役者を見つけてきて半世紀前のコンサート演奏を上手に再現させているように見えたほどです.
音響の臨場感も合わさっていて,「いま」世界のどこかの大規模コンサート会場で演技の上手な役者4人がビートルズに扮して演奏をしており,その中継映像を遠く離れた映画館で観ている,というレベルでした.
2016年のデジタル技術でも取り除くことのできない,オリジナルフィルムの不鮮明さについては,古さを演出するための効果に見えるほどでした.
1966年前のビートルズがライブ重視だったことを実感
ビートルズの音源がCD化された1980年代半ばから今月まで,ビートルズの公式なライブ盤は発売されませんでした.
そのため,ビートルズのサウンドとして世の中で聴かれていたものは,ほとんどがスタジオ録音されたものだったわけです.
それが,この映画の公開と,それに先立つライブ盤の発売で変わって行くかもしれません.
いずれも,ビートルズがすばらしいコンサートを行っていたグループだったことを再認識させてくれるものだからです.
パンフレットにも次のように記されています.
この映画の狙いの1つは、ビートルズのライブを生で観るチャンスに恵まれなかった世代に、それがどのようなものだったかを伝えることだ。
ビートルズが世の中の価値観を変えた具体的な例の記録
ビートルズは音楽に限らずファッションやライフスタイルも含めた1960年代の文化に影響を与えたアーティストだった,という説明はあちらこちらで見かけますが,2016年の現在のモノサシで判断すると,どれもあたりまえになっていて,具体的に彼らが世の中にどのようなインパクトを与えたのかを把握することは難しくなっています.
そうした状況で今回,1964年にアメリカ南部で大規模コンサートを開催する直前に行われたインタビュー記録映像は,社会の価値観,特に民主的な世界を創ることにビートルズが貢献したことを具体的に示しています.
映画のなかでも衝撃的な新事実は、64年、アメリカ南部を訪れたときにビートルズが直面したエピソードだ。彼らは人種差別が行われている会場でコンサートをすることを拒否したため、フロリダ州ジャクソンビルで行われたゲイターボール公演では、座席を人種によって分けるという方針が変えられることになったのだ。
半世紀前のアメリカには,街中の施設が白色人種向けと有色人種向けに隔離されている地域がありました.コンサートを開催するのであれば,白人用の席と有色人種用の席を分けて設置することになります.
それに対してビートルズは「そのようなやりかたをするのならコンサートは行わない」と言い切り,結果として観客席には様々な肌の色をした観客が集まることになりました.
もしもビートルズがアメリカでコンサートを行わなかったら,コンサート会場の客席を観客の肌の色で分ける習慣がこの世界から廃止されるのはいつになったことでしょうか?
2016年の世界を理解するために役に立つ映画
この映画は,私たちが暮らす2016年の世界を理解するために助けとなる作品です.
ビートルズの4人が最善を尽くして創り上げた音楽で人々の心を揺さぶり,人々の無意味な価値観を砕き,その先の世界に2016年の私たちが暮らしていることがわかるからです.
ビートルズが最後の大規模コンサートを開催した1966年8月から半世紀過ぎた今のモノサシで,1966年に彼らの言っていたことと,その当時の社会のスタンダードとを測ってみると,私たちが暮らすこの世界は,彼らの言っていたことの先にある,ということを実感します.
『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK』は,「今」に最善を尽くすことが未来を切り拓く,ということを具体的に教えてくれる映画作品です.
#ビートルズ映画 公開初日に観てきた.半世紀前の世界で #ビートルズ #TheBeatles がみせてくれたマジックの一部が切り取られて封印されたまま2016年になって公開された感じ.@usm_thebeatles pic.twitter.com/45z6qb5065
— 野島 高彦【化学】 (@TakahikoNojima) 2016年9月22日
予告編トレーラー