1968年にビートルズはLPレコード2枚組に30曲が収められたアルバム「The Beatles」を発売しました.真っ白なジャケットから通称「ホワイト・アルバム」と呼ばれています.
この時点でのビートルズの4人が持っていたアイデアを片っ端から詰め込んだ2枚組,という評価をする人もいる一方,バラバラな印象の曲を集めた散漫な印象を受ける2枚組,という評価をする人もいます.私はどちらもそれなりに当てはまっていると考えています.
この作品の発売50周年目にあたる昨年2018年,リミックス盤が発売されました.倉庫から半世紀前のテープを引っ張り出して来て,最新の音響技術で音を再構成する大変な作業がおこなわれた模様です.
リミックス盤もCD盤では2枚のディスクに30曲が収められていますが,その他にスタジオでの制作がスタートする前にギターのジョージ・ハリスンの自宅でアコースティック・ギターの弾き語りで録音された「イーシャー・デモ」27曲入りの「ディスク3」がセットになった3枚組の「3CDデラックス・エディション」,さらにスタジオでの制作過程の中から選ばれた50テイクを3枚にわたって記録した「セッションズ」の「ディスク4」〜「ディスク6」とBru-ray 1枚がセットになった「スーパー・デラックス・エディション」が同時に発売されました.LPレコードも発売になりましたが説明省略.
スーパー・デラックス・エディションのCDに収められた全107曲はAppleMusicでも配信されています.
「イーシャー・デモ」を最初に聴く
スーパー・デラックス・エディションをディスク1の1曲目から順に聴いていくのはタイヘンです.
私がオススメするスーパー・デラックス・エディションの聴き方は,
「イーシャー・デモ」→「セッションズ」→「ホワイトアルバム」
の順に聴いて行くというものです.録音された順でもあります.
まずメンバーがジョージ・ハリスンの自宅に集まって,テープレコーダーを囲んでアコースティック・ギターで弾き語りをしている様子を収めた「イーシャー・デモ」27曲を聴きます.音楽好きの二十代の若者が4人集まっている,とても楽しそうな雰囲気が想像できて,この2年後には内紛によって解散しているグループだとは信じられません.
それからスタジオに入って作品を仕上げて行く段階を収めた「セッションズ」50曲・3枚を聴きます.
「イーシャー・デモ」の段階と比べてアレンジが変わっている曲もあり,「イーシャー・デモ」には入っていない曲もあり,アドリブ的な演奏が延々と続く曲もあります.
3枚のCDに収められた50曲を続けて聴き続けているうちに,ビートルズが試行錯誤しながらアルバムを作っていく過程に同席しているような錯覚にたどり着くこともあります.
そして最後に,2018年にリミックスされた「ホワイト・アルバム」を聴きます.
「イーシャー・デモ」から始まり,「セッションズ」で長い時間をかけて仕上げられて行った曲が,完成したサウンドです.
スーパー・デラックス・エディションでホワイト・アルバムに対する印象が変わった
「ホワイト・アルバム」制作時のビートルズはギスギスした人間関係の中でアルバムを作っていた,ということがあちらこちらに書かれています.たとえば,
メンバー間の確執は深まり、リンゴは1週間に渡りバンドを脱退した。
ビートルズ『ホワイト・アルバム』の原点となった音源「イーシャー・デモ」制作秘話/Rolling Stone日本語版 (2018-08-05)
っていうのは,少なくとも私が十代の頃からあちらこちらに書かれていた話です.
他にもレコーディング・エンジニアが付き合いきれなくなってスタジオを出て行ってしまったとか,プロデューサーがブチっとキレてスタジオを出て行ってしまったとか,ネガティブな裏話がイロイロとあります.そういうのがこのアルバムの「散漫な印象」を強めている面があります.
ところが「イーシャー・デモ」からは,楽しそうで明るい印象しか伝わって来ないし,裏話を知らなければ「セッションズ」からもネガティブな印象を受けないかもしれません.
というわけで,今回「ホワイト・アルバム」の「スーパー・デラックス・エディション」をパッケージ購入した人も,ダウンロードした人も,試しに上記の順で聴いてみて ください.これまでの「ホワイト・アルバム」に対する印象が変わるかもしれません.
そういえば最近は,スタジオで「ホワイト・アルバム」制作を続けていた間の4人は友好的な関係だったというような説明を見かけるようになりました.
たとえば,今回のプロデューサーを努めたジャイルズ・マーチン氏 (ビートルズのプロデューサーだった故ジョージ・マーチン氏の息子) によれば,
リンゴ・スターがホワイト・アルバムの収録期間に一度離脱したことにも言及。「メンバーの状態が悪かったのではなく、ポール・マッカトニーがリンゴのドラムキットの前に座っていたから。でも一旦いなくなると、4つのうち1つの柱がなくなったことに気がついたようで、戻ってきたときにはスタジオいっぱいに花を飾って迎えた」
ジャイルズ・マーティン氏が来日 ビートルズ『ホワイト・アルバム』50周年記念盤、プロデューサーが語るリミックスの裏側/PhileWeb Audio (2018-10-04)
っていう話になっています.
あれ? 歴史が修整されている感が.
2018年リミックス盤「ホワイト・アルバム」はオススメ☆
これまで「ホワイト・アルバム」を聴いたことの無い人には,今回発売された2018年リミックス盤「ホワイト・アルバム」をオススメします.半世紀前と今とでは音楽の再生環境も異なります.2018年の再生環境も考慮されたリミックス盤のほうが聴きやすいでしょう.
すでに「ホワイト・アルバム」を何度も何度も何度も聴いたっていう人にも,試しに2018年リミックス盤「ホワイト・アルバム」も聴いてみることをオススメします.「こんなところにこんな音が!」とか「こんなに広がりのある曲だったなんて!」という発見が待っていることでしょう.
今回のリミックス作業によって楽器のバランスが整えられ,音の分離が良くなりました.
特に低音はすばらしく,ベースの太い弦がブンブンうなる様子とか,バスドラのヘッドが震える様子とかがイメージできるほどです.
ミキシング作業まで含めて1つの作品だという考えもありますが.リミックスによって作品の隠れた魅力が発見できるところがステキだと私は考えています.この先にもビートルズの作品のリミックス盤が発売されることを楽しみにしています☆
おまけ: 私が買ったパッケージ
今回限定販売された「スーパー・デラックス・エディション」には,通し番号が打たれています.私のはNo. 0097719でした.
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