昨年2018年9月にポール・マッカートニーのアルバム『エジプト・ステーション』が発売されました.
前作『NEW』から5年ぶりのオリジナル・アルバム発売でした.
前作とのギャップ
前作『NEW』(2013年)のタイトル曲『NEW』では,70代になっても精力的にワールド・ツアーを続ける現役ロック・スターのポール・マッカートニーが,
僕らはやりたいようにできる.自分の道を生きていける.
と力強いメッセージを歌っており,ここから人生に勇気と自信を再び見出したのは私だけではないでしょう.
ところが今回のアルバム『エジプト・ステーション』では,先行リリースされていた1曲目の『アイ・ドント・ノウ』(実際には効果音『オープニング・ステーション』が1曲目として収録されているので2曲目になります) で,人生の出来事に対して
いったいどうしたのだろう.僕にはわからない.
と告白するように歌っています.
前作との大きなギャップが存在します.
何か落ち着かない,不安定な感覚
サウンド作りも前作とは大きく異なっています.
少し耳障りに感じる部分もあるアコースティック・ギターやブラス・セクションと,5年前と比べて歌うのが厳しそうに感じられるボーカルの組み合わせからは,乾いた印象を受けます.
そのため,何か落ち着かない,不安定な感覚を抱きつつ,最後の曲までたどり着きます.
しかし,それがこのアルバムを,これまでのポール・マッカートニーの作品と異なるカラーに染めているのかもしれません.
『エジプト・ステーション』は,日本語版CDのライナー・ノーツによれば,「音楽の旅」を意識したコンセプト・アルバムとしての構成になっているとのことです.
旅には緊張感が伴うものです.それが,何か落ち着かない,不安定な感覚を抱かせるのかもしれません.
落ち着いて心地よいアルバムを聴きたいのであれば,たとえば2005年の『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード〜裏庭の混沌と創造』を聴けばよいのです (私がもっとも気に入っているポール・マッカートニーのソロ時代のアルバム).
何度も体験したくなる旅
この「旅」は何度も体験したくなる旅です.
同じ土地に,別の季節,別の年に再び訪れてみたくなるのと似ているかもしれません.
再び訪れた土地に新しい発見が待っているのと同じように,2回目,3回目と繰り返し聴いていくと,新しい何かが見つかるのが『エジプト・ステーション』です.
「ビートルズのポール・マッカートニー」ではなく,2018年のポール・マッカートニーがよくわかるアルバムです.
ボーナス・トラックも良曲
日本版CDにはボーナス・トラック2曲『ゲット・スターティッド』と『ナッシング・フォー・フリー』も収められています.
どちらも本編のどこかに組み込まれていてもおかしくない作品です.
『ゲット・スターティッド』からは,ポール・マッカートニーっぽいポップスのメロディーが感じられます.
『ナッシング・フォー・フリー』は,スタジオでお遊びで作ったのだろうかと思える作品です.こちらもメインのメロディにはポール・マッカートニーっぽさが染みこんでいます.
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『エジプト・ステーション』に収められた曲の一部は,昨年の来日公演でも演奏されました.
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