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興味をもってきたものごとアレコレの記録

電気の音が聞こえる・憧れの未来からのメッセージ

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TVから何かが聞こえる

子供の頃のテレビはブラウン管式でした.スイッチを入れるとバチッていう音がして,それからちょっと時間を置いて画面が表示される,というしくみになっていました.

このバチッていう音の後に,文字で書き表すとしたらヒューーーンというか,キィーーンというか,ジーーーというか,そんな感じの高い音が聞こえていました.これはスピーカーからの音ではありませんでした.イヤホン端子にイヤホンを突っ込んで音量調整ツマミを最小にしておいて電源onにしても聞こえたからです.注意して聞いていると,離れた部屋にいても聞こえることがわかりました.どうやらテレビ本体から聞こえてくるらしい,それもブラウン管が怪しい,しかし何だかわからない.とりあえず私はこの音のことを「電気の音」と呼んでいました.

電気の音が聞こえる.

というようなことを周囲の大人に言ってみたものの,「そんな音,しない」で終了でした.同世代の友人にきいてみても,一人か二人くらい「あ,するよね!」とわかってくれた人がいたほかは「何言ってるんだ?」っていう調子でした.そりゃそうだ,電気の音が聞こえるわけがない.しかし私には聞こえる.なぜだろう?

仲の良い いとこが遊びに来たときにこの話をしてみたところ,それじゃ試してみよう,っていうことになって,いとこはTVのある部屋に残り,私は離れた部屋に行って,TVの音が聞こえるかどうかを確かめることになりました.TVの電源ボタンを押すとガチャっていう音がするので,TVはスイッチを切らずに電源プラグを抜いておき,プラグをコンセントに突っ込むことによって電源onするっていう方法を採用しました.当時の家電はソレでも電源が入ったのです.

いとこにはTVのある部屋で,TVをonにしたりoffにしたり,offにすると見せかけてonのままにしたり,というようにランダムにon/offをやってもらいました.私にはそのたびに確かに「電気の音」が聞こえたり聞こえなくなったりしたので,大きな声で「いまTVがついたー」とか「いま切れたー」と答えました.コレが全問正解だったので,確かに私には「電気の音が聞こえる」ということになりました.

そういうわけで,私は自信をもって再び友人に「やっぱり電気の音が聞こえる」という話をしてみたのですが,超常現象とかオカルトとか超能力とか宗教とか,そんな感じの何かだと勘違いする人もいて,もう説明するのも面倒だし,別にこの感覚を誰かにわかってもらわなくてもいいやってなりました.

そして私は大人になりました.

離れた部屋にいてもTVがついているかどうかがわかる,という能力が何かの役に立ったことはありませんでした.別にそれでいいよ.

寝る前に電気の音が聞こえる

その頃,静かな夜,ベッドに横たわっていると,「電気の音」が聞こえてくることに気付きました.TVの音とちょっと種類が違うのですが,ヒューーーンというか,キィーーンというか,ジーーーというか,そんな感じの音があちらこちらから聞こえてきて,その種類がだんだん増えて行ったり,途中で変化したり,ということがありました.家族がみな寝てしまった夜中にも聞こえてくるので,近所で誰かがTVを見ているのだろうとか,TVではない他の電気製品からも音が出ているのだろうとか,そんなことを考えていました.

江戸時代とか鎌倉時代とかには電気の音が聞こえなかったことでしょう.これは人間が電気を使うようになったから聞こえる音なのだ.これから先にイロイロな電気製品が登場すると,それぞれ電気の音を出して,夜になると賑やかになるのだろう,なんていうことを子供の頃の私は考えていました.「電気の音」は,TV電話とか,家事ロボットとか,腕時計型トランシーバーとか,バッテリー駆動の浮上式自動車とか,その他イロイロな「未来の電気製品」への想像を膨らませてくれました.「電気の音」は憧れの未来からのメッセージだったのです.そのメッセージを受けとりながら,私は眠りについていたのです.

電気の音ではなかった

というアレコレの正体を最近になって知りました.

古いTVのブラウン管からは確かに音が出ていて,その音は人間の耳にキャッチできる周波数の外れのほうのもので,「モスキート音」という名前も付いていて,私はその音を聞いていたのです.人間の耳がキャッチできる音の周波数は年齢とともに狭くなって行き,TVのブラウン管から出てくる音は大人には聞こえないのです.私が子供の頃に周囲の大人が「そんな音,しない」って言ってたのは当然だったのです.同世代の友達にも聞こえていたはずですが,TV番組には関心があってもTVの仕組みなんか関心がなかったから,そんな音には気が付かなかったのでしょう.実験につきあってくれた いとこにも聞こえたはずなんだけど,周囲の音に埋もれると聞こえていても判別できなかったのかもしれません.

私は大人になりモスキート音が聞こえない年齢になりました.仮に聞こえていたとしてもブラウン管式のTVは姿を消したので,あの音を聞くこともなかったでしょうが.

静かな夜に寝る前に聞こえてくる音は,「オイフォン(euphon)」とか「耳音響放射」とか「生理的耳鳴り」と呼ばれるもので,人間の聴覚はもともとそういう音が聞こえる仕組みになっていて,自覚している人もいれば自覚していない人もいる,というものなのでした.これが激しくなると耳鳴りに悩まされる人も出てくるようですが,異常な状態でもないのです.

今でも未来の音

今も静かな夜に横になっていると「電気の音」が聞こえます.もちろん今の私はそれが電気の音ではないということを知っています.それでも,目を閉じてこの音を聞いていると,未来の社会や電気製品に想像を膨らませていた子供時代の夜の一時のことを思い出し,その未来まで人生が続いたということに幸福感を抱くのです.浮上式自動車とか,家事ロボットとかはないけど,他にイロイロと面白いものが登場して世の中は楽しくなったよ! きっとこれからも!
「電気の音」は,私にとって今も憧れの未来からのメッセージです.今も私は,そのメッセージを受けとりながら,眠りについています.