「機能とか構造とかデザインとかのヒントを自然界に探しに行こうっていうことになって,いま興味をもってるのが泡なんだよね,そうそう,シャボン玉の泡.いくつも集まっているとき,泡と泡の接合面が正六角形とか正五角形になっているとか,透明なのに干渉縞のカラフルな色が見えるとか.ああいうの面白いって思ってるんだ」
っていうことを,建築学を学ぶ長女が言ってきました.大学院の課題か何かの一つのようです.
「やっとその日が来た!」
って私は答えましたが,「その日」って言われても長女には何のことだかわかるはずもありません.私だって十何年も忘れていたんだからね.
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「覚えてるかな,マンションの6階に住んでいたころ,休みの日にはベランダでシャボン玉遊びをやってたのを.
あのときに君は,セッケン水をつけたストローみたいなのにそーっと息を吹き込んでいくと球状にふくらんで行くこととか,
透明なのに虹みたいな色が付いていて揺れ動いていることとか,
手で触れると泡が壊れてしまうこととか,
ブクブク集まった泡と泡のつながりががよくみると多角形になっていることとか,
そういうものごとを見つけては,なんでなんでなんでなんでなんでーって訊いてきたんだよ.
それで,できるかぎりわかりやすく説明してみたんだけど,難しいんだよねコレが.だってその時の君は,まだ幼稚園に通っていたわけだからね.
それで,
『今の君には,どうしてこういうことが起きるのかは,理解することができない.とても難しいんだ,説明するのも理解するのも.
でも,よく学んでいけば,理解できる日が来る.
だから,その日が来るまで,教えるのは お預けだな.』
って言ったんだよ.
あれから君は微積分学を学んだので,今の君には,泡が球形になる理由がわかるよね.球は表面積が最小になる形だ.
あれから君は物理学を学んだので,今は,虹色に揺れ動く理由がわかるよね.光の干渉を見てるんだ.
あれから君は化学を学んだので,今は,手の上で泡が壊れる理由がわかるよね.セッケン分子と皮脂との反応だ.
君は,よく学んだっていうことだ.
それだけじゃないよ,学んだことを工学的に応用する方法を考え始めるところまで成長したんだ.
もう君に,シャボン玉に関係して教えることは無いよ.『その日』が来たからね.いや,とっくに来ていたんだろうけどね.」
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私は娘に「理解できるところまで成長したら教える」っていう約束をいくつかしてきました.
でも,常に娘は私が気付く頃にはじゅうぶんに成長していて,私はというと,常に ものごとの理解に貢献する機会を逸し続けています.
これは予想していたよりも人生が良い方向に進んでいることなのだと,私は理解しています.だから未来に進んで行くことを,ポジティブにとらえることができます.
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「そうそう,まだ答えていなかったことがあるよね,シャボン玉の細かい泡が集まったときに表面積がどうなっているのかとか,接合面がどのような形になるのかとか,そういう幾何学的な問題.
コレ,ベランダでシャボン玉遊びをやっていた頃にはまだ幾何学だか数理科学だか物理学だかの人々の間で 研究課題 になってたレベルの問題で,それ以降も研究してる人々がいて,いろいろと論文が出てるみたいなんだけど,たぶん私が読んでも理解できないし,解決したのか未解決なのかも知らないし,調べてもいない.
そのへんのものごとを理解する能力では,もう君は私を抜いてるだろうから,興味があったら調べてみるといいよ.
そして,私にわかるように説明してくれ☆」
(写真:長女が4才になった頃.この記事最初の写真は5才になった頃.)
「人生においては幸福を追求するのだ!」が順調に行ってるよ! やったね☆
— 野島 高彦【化学】 (@TakahikoNojima) 2017年4月29日