銀座のLIXILギャラリー1で開催中の「薬草の博物誌 -森野旧薬園と江戸の植物図譜-展」を見に行ってきました.5月21日まで開催中です.
「森野旧薬園」は奈良県にある日本最古の私設植物園です.
260年前,ここで栽培されていた薬草の植物画を収めた図鑑『松山本草』がつくられました.
それ以降,明治時代初期までに輸入されたり つくられたりしてきた植物図鑑の現物が,このイベントでは展示されています.
最初の1冊は中国から伝わった書物を和訳した「記録」書類的なものですが,ここから我が国独自の様々な改良と工夫が続き,明治初期には「記録」と「表現」を併せ持つ形態になっていました.
薬草の博物誌 -森野旧薬園と江戸の植物図譜-展
プレスリリース
全体で3部構成になっていました.
- 森野旧薬園と『松山本草』
- 江戸の植物図譜
- 本草学から近代植物学へ
1. 森野旧薬園と『松山本草』
森野旧薬園の紹介ビデオが投影され,電子ファイル化された『松山本草』をタッチパネル式のリーダーで閲覧できるようになっています.
2. 江戸の植物図譜
以下の書籍が展示されていました.
『本草綱目』,李 時珍(中国)(1596)
薬草の名称の考証,産地の注釈,味と香り,主な効き目,製造方法,従来の文献の誤りの訂正,などが記録されています.
『本草綱目』/国立国会図書館デジタルコレクション
『大和本草』,貝原 益軒(1709)
「無用の小草」も収録したり,「学者の心得」とか「参考書」とかも記されています.
『大和本草』/国立国会図書館デジタルコレクション
『畫本野山草』,橘 保国(白黒1755)(カラー1806)
薬草の図鑑としてだけでなく,画家志願者への参考書も兼ねています.ここからカラー展示になりました.
『畫本野山草』/国立国会図書館デジタルコレクション
『花彙』,小野 蘭山(1759)
説明によれば我が国最初の「図鑑らしい図鑑」とのことです.
『花彙』/国立国会図書館デジタルコレクション
『物類品隲』,平賀 源内(1763)
『本草図譜』,岩崎灌園(1830)
日本で最初の植物図鑑です.
『本草図譜』/国立国会図書館デジタルコレクション
『古方薬品考』,内藤 尚賢(1842)
個体差のある2,3の図版を掲載しているのが特徴です.
『古方薬品考』/国立国会図書館デジタルコレクション
『本草綱目啓蒙図譜』,服部雪斎
3. 本草学から近代植物学へ
牧野富太郎博士の紹介から始まる展示です.
『草木図説』,飯沼 慾斎(1856)
顕微鏡を使用してスケッチされていることと,リンネの分類法に従っている点が特徴です.
『草木図説』/国立国会図書館デジタルコレクション
『草木花実写真図譜』,川原 慶賀(明治時代初期)
『彩色植物図』,関根 雲停(1841-1873)
「生きたものを生きているように描いている」ことが特徴の図鑑です.
●写真ではなく手書きイラストなのがよい
写真という技術が存在しなかったために手描きのイラストで記録が残されてきたわけですが,スマートフォンで手軽に写真データを残せる2016年も,手描きのイラストには捨てがたい魅力があります.
それは,強調したい点を詳細に描くことができる点です.
背景は完全に白紙にすることができるし.
過去の描き手が何を記したかったのかが伝わってくるような展示イベントでした.
植物が好きな人にも,絵画が好きに人にもおすすめのイベントです.

薬草の博物誌 森野旧薬園と江戸の植物図譜 (LIXIL BOOKLET)
- 作者: 佐野由佳(ライター),?橋京子(大阪大学総合学術博物館准教授),水上元(高知県立牧野植物園園長),金原宏行(豊橋市美術博物館館長)
- 出版社/メーカー: LIXIL出版
- 発売日: 2015/12/10
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